和歌山大学教育学部紀要. 人文科学 71
2021-02-08 発行

文学作品の語り手を超える領域を読むことで開かれる作品世界の重層性 : バーネット『小公女』における語りの分析より

The Multilayer World of A Little Princes Opened by Reading Superior Narrator
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本文言語
日本語
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171
終了ページ
178
抄録(和)
本研究では、時代を超えて多くの読者に感動を与え続けてきた『小公女』(A Little Princess 1905年版翻訳)について、語り語られる作品のことばの仕組みを捉え、語り手の批評意識を超える領域を読むことで、登場人物たちの主体的に生きる姿が織りなす作品世界の重層性を解明した。それは、主人公に焦点化して作品世界を分析する先行研究を相対化するものである。『小公女』は個性的な登場人物たちが種々様々な感情を交錯させながら展開されるが、作品のことばの仕組みを分析していくと、作品世界に生きる人物たちについて語り手が批評しきれていない領域が浮かび上がる。こうした語り手の意識を超える領域を読むことで、ストーリーの流れを表層的に捉えたり主人公を中心に作品世界を表象したりするだけの読みを超え、登場人物たちが相互主体的に関わり合う作品世界の重層性が開かれる。『小公女』の作品世界では、心を通わせることのできる人物とは絆を深めるが、それがかなわない人物とは関わりを避ける主人公の姿を中心に、それぞれの登場人物がおのおの独立した他者性を発揮しており、人と人とが理解し合うことの尊さと難しさとが対照的に描き出されている。
著者版フラグ
出版者版