和歌山大学教育学部紀要. 人文科学 72
2022-02-09 発行

一人称の語り手によって語られる文学作品世界の重層性 : 小川洋子『刺繍する少女』における語り手「僕」が編み出す作品世界の臨場性・省察性・他者性

Multiple World of Literature Told by a First-person Narrator : Reality, Reflexivitiy and Otherness in Yoko Ogawa’s the Embroidering Girl
フルテキストファイル
Self DOI [info:doi/]
本文言語
日本語
開始ページ
141
終了ページ
148
抄録(和)
本研究の目的は、一人称の語り手が語る文学作品世界の臨場性・省察性・他者性を読者が俯瞰的・構造的・重層的に読み解くことの意義を明らかにすることにある。一人称の語り手「僕」が語る『刺繍する少女』は、当事者として出来事当時の感情が語られる世界、その出来事を語る現在において省察した世界、そして、語り手が語り得ていないながらも、ことばの仕組みから立ち上がる語り手の語りを超える世界、の三層によって作品世界が構成されている。そして、その作品世界の重層性を読み合わせると、「僕」と「彼女」と「母」と、登場人物それぞれの思いが交わることなく相互疎外状況にある世界が浮かび上がってくる。『刺繍する少女』は、一人称の語り手の恋愛経験を追想する作品ではなく、その恋愛経験から、登場人物同士の思いがすれ違っていく世界を描き出した作品と読めてくる。こうした文学作品の読みの研究は、読みの多様性ではなく、読みの拡張性を拓く研究として位置づけられる。
著者版フラグ
出版者版