第二次大戦中に時局に抗して学問的な良心を貫いたことで稀有な存在とされる西岡虎之助の敗戦直後の講義ノート(東大経済学部の日本経済史)を公開する。本来公開を目的としない手記であり、研究者・教育者としての西岡の真の姿を示す史料となり、敗戦後歴史学の等身大の実像、ひいては良心的な知識人の思考を知る手掛かりとなる。ここで紹介する前半の中からは、国体護持・天皇擁護(至尊免責)、米国占領政策批判、赤色デモクラシー(共産主義)傾斜という、西岡の不安定な確信が明らかになる。国家の行く末をスウェーデンに求める点もオリジナルな政治評論として注目されるであろう。なお、公開については所蔵者の了解を得ている。
本稿は、日本学術振興会助成金(基盤研究C課題番号21K00870 )の成果である。