本研究の目的は、高校国語科教師が教科内容観を拡張するプロセスについて、学校環境の異なる複数の教師間での共通性と個別性をふまえ、経験学習モデルを構築することにある。研究方法は、教師の語りを組織立てて概念化するナラティヴ・アプローチを採用した。教師自身の経験世界に迫るためには、教師の語りを分析対象とすることが適しているからである。分析の結果、教師間の共通性として、①教科内容観の拡張内容、②その拡張を促す内的要因の2点が、また、個別性として、①教師を取り巻く外的環境要因、②生徒が抱える課題、③教科内容観を授業展開する手立て、④授業改善に向けた今後の課題の4点が、それぞれ明らかになり、これらの要因の関係性を、教科内容観の拡張に関わる学習モデルとして構造化した。経験学習に関わる種々の先行研究では、経験の蓄積に伴う“拡張”イメージが具体化されていない、あるいは、個別領域ごとの専門的内容を反映した理念(観)との関係を中心に配置した学習モデルを描き出せていない傾向にある。そうした課題をふまえ、国語科教師の経験学習に関わる内容・方向性を具体化した点に本研究の特徴が見出される。