本研究は、教員養成における芸術教科と障害児教育における「融合カリキュラム」研究の一環であり、「音楽を構成する諸要素の原理的学習ならびに身体感覚の理解を含めた実践的学習によって、授業者は音楽の基本を理解し教科内容と教育方法を明確にした授業実践力を形成することができる」という仮説に基づくものである。この仮説をふまえ、本稿では、教科専門音楽設定科目の「障害児のための芸術教育基礎論」において実施した授業カリキュラムの到達点と課題を明らかにすることを目的とする。具体的には、西洋クラシック音楽と機能和声の手法によってつくられた日本の三拍子の音楽について、それぞれの拍節感に焦点をあてて文化史的に比較しながらその原理を理解・習得するとともに、本学部附属養護学校高等部の生徒を対象にした音楽の授業づくりに取り組んだ。その結果、本授業の成果としては、第1に、障害児教育専攻の学生など必ずしも十分な音楽的専門性を有しない者であっても、拍節感に関する西洋と日本との文化的相違点の理解やそれぞれの拍節感の体得が可能であったこと、第2に、それらに基づいた題材「三拍子を感じよう」の授業づくりにおいては、履修学生たちがボイス・リズムや布を使った身体表現などを駆使し、拍節感の体得が可能な学習指導案を発案することができたこと、があげられる。一方、残された課題としては、第1に、拍節感体得のために三拍子の楽曲を簡略的にアレンジしたものの、時間的制約もあり、履修者各自がピアノ伴奏としての拍節感を表現することは困難であったこと、第2に、附属養護学校でのモデル授業を行う対象の生徒たちを理解・把握するための事前の授業時間が十分確保できず、「障害のある生徒たちを想定した授業づくり」という点で不十分さが見られたことがあげられる。