本研究の目的は、知的障害のある生徒たちに向けた「性の多様性」の理解をめざす授業実践を行い、授業を通して生徒たちの思考や価値観にどのような変容が観られたのか、授業中の参与観察および、授業の事前・事後のインタビュー調査によって明らかにすることである。主な結果として、「性」に関する価値観が自分とは異なる人に対して「へん」といった否定的発話が生じるのは、性的マイノリティに対する嫌悪感に依るものではなく、そうした人々の存在を知り得る学習機会をこれまで獲得できなかったことに起因することが明らかとなった。
本授業実践においては、生徒たちは「同性愛(者)」は社会の何処かに存在するが、自身の身近な生活圏にも実存するという明確な認識には至らない傾向が観られた。また、周囲から異質者扱いを受けないためには、本来の自分らしい性表現を抑圧し、「隠す」ことを自身に強いる生徒も観られたことから、固定的なジェンダー規範に拘束されない意思形成と、生徒たちのエンパワーメントを支える授業づくりが早急に必要であると結論づけた。