現在,学校教育現場では国の教育施策の変化の中で,いろいろな課題を抱えている。このことは障害児教育についても例外ではない。そこで本論文においては,知的障害養護学校がもついくつかの課題の内,問題行動に対するアプローチをとりあげ,それを通して社会の障害観も含みつつ,知的障害児教育についての在り方を考えてみた。問題行動自体の消失,機能的に等価な代替行動の獲得をめざした指導は,行動の文化・社会的パターン化という面においては意味をもつものではあるが,その獲得に至る行動療法的アプローチの限界と,この考え方の背景にある問題行動をネガティブに捉えることのあり方を問った。そして,問題行動を子ども自身の内的安定性を保つべく機能的な行動であることとして,ポジティブに捉えなおし,子どもの適応の仕方を探る道を示しているという意味における重要性から,問題行動は単に消去されるべきものではなく,この行動を手がかりにして教育を行うことによって,結果として問題行動の消失をはかるという視点を投げかけた。さらに,障害児教育は障害そのものに対するアプローチではなく,教師との信頼関係をふまえ,学校の教育活動全体で障害を負っていない面をいかに育てていけるかにかかっているということを中心に,社会の障害観も含みつつ,知的障害児教育について再考した。