和歌山大学教育学部紀要. 教育科学 57
2007-02-28 発行

大学生活不安に関する心理学からのアプローチ

A psychological approach to the anxiety of unversity students
田中 存
菅 千索 教育学部
フルテキストファイル
Self DOI [info:doi/]
本文言語
日本語
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15
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22
抄録(和)
近年、学生の無気力・不登校などの学校不適応が問題となっている。大学生では不登校の出現率は1.2~2.0%と推測されている。不登校者を小学生から大学生まで含めるとさらに多い。そのきっかけには、本人に関わる問題や、対人関係に関わる問題が挙げられる。さらに、その要因には不安や情緒的なものが挙げられる。学生が抱える不安について調査し、その要因を考えていくことは、学校不適応や不登校、登校拒否など教育現場の深刻な問題にアプローチする重要な手がかりになると考えられる。そこで、本研究では大学生を対象とし、大学生活で抱く不安のみならず日常生活で抱く不安についても考えていく。そして、不安に影響を与えている要因を生活状況・性格特性・対人関係の3方向から、検討していくことを目的とし、和歌山大学教育学部の学生196名(男子101名、女子95名)に対して質問紙による調査を行った。大学生活における不安としては「日常生活不安」「評価不安」「大学不適応」とその合計であ「大学生活不安尺度」の4変数を用いた。また性格特性では、「社会的外向」「神経質」「抑うつ性」の3変数、対人関係では、「社会的スキル」「他者志向性」「演技性」の3変数を使用した。学年と不安に関して分散分析を行った結果、「大学不適応」で、1回生と4回生の間に有意な差が見られた。「大学生活不安」に関しては、対人関係の影響よりも性格特性の影響の方がより強く関係していた。影響力の強い変数から順に、「神経質」>「抑うつ性」>「社会的スキル」であった。「大学生活不安尺度」の下位尺度である「日常生活不安」「評価不安」、「大学不適応」では、日常生活不安」では「神経質」「抑うつ性」「社会的スキル」、また「評価不安」で「神経質」「抑うつ性」「演技性」、さらに「大学不適応」では「抑うつ性」「社会的外向」が強い影響を与えていた。「他者志向性」に関しては大学生活の不安に、影響を与えていなかった。大学生活で抱く不安に関しては、対人関係の影響よりも性格特性の影響の方が強いことが示された。また、不安の高い項目で、対人関係に高い不安を感じているという結果も得られている。現在の大学生では個人差はあるものの、ほとんどの学生が不安を抱えている。特に日常生活における不安と評価に対する不安が高かった。しかし、それらの不安は大学生活の中での漠然としたものに対し多くの不安を抱えるが、単位習得や卒業に対しては、楽観的で甘えのある考えが出てくると考えられる。また、就職など現実的に進む道が見つかった時、不安を感じなくなると考えられる。本研究では、大学生活での不安にどのような要因が関係しているのかを明らかにすることを目的としていたが、その中には日常生活での不安も含まれており、求めたいものが幅広くなりすぎていた。そのため、今後はより目的を絞っていく必要があろう。
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