本研究は、倉橋惣三の幼児教育論の中心概念である「根の教育」を手がかりとして、幼稚園における「自由保育」が有する教育学的意義を考察することを目的とした。「自由保育」は全国の幼稚園で数多く取り入れられている集団的な幼児教育の形態の一つである。「自由保育」は、幼児の自発的な遊びや活動を重視し、その中で一人ひとりの発達の課題に即した指導を行うところに特徴がある。倉橋は、「幼児期の思考と活動が未分化な状態にあることを幼児教育の出発点」とし、遊びの発展過程にみる幼児の成長力そのものを育てていくことを重視した。そのうえで、「根」が有する成長力を幼児の成長力の根源とした。この倉橋の「根の教育」は、「自由保育」という場においてこそ具現化され得るものである。さらに、倉橋のいう「生活活力」は、エリクソンの「virtue」に、「根」は「grand plan(基本計画)」にそれぞれ対応したことから、「根の教育」は幼児の自我発達を促す教育論であるものと考えられた。よって、「根の教育」を具現化する場である「自由保育」は幼児の自我発達に資する可能性を有しているところに教育学的意義を見出し得るものと考えられた。